西粟倉村役場・地域のローカルベンチャーの支援をする。それのなにが悪いんですか

西粟倉村では起業する地域おこし協力隊の募集をはじめました。西粟倉村に拠点を置くローカルベンチャーをふやすためです。自治体というものは公共性・公平性の観点から、特定企業との協力関係をむすぶことはあまりしないといいます。しかし西粟倉村役場は、積極的に民間企業と関わりを持ってまちづくりを進めています。なぜ西粟倉村はローカルベンチャーを求めているのか?ローカルベンチャーに未来を託す西粟倉村行政の胸のうちとは?表舞台にはあまり登場しないレアキャラ、行政の中の人・上山隆浩さんの率直なお話を伺います。

西粟倉役場 産業観光課長(上山隆浩)
聞き手・文=浅井麻美(ココホレジャパン
写真=片岡杏子(kataokakyoko.com
編集=玉利康延(tamalog.me

INDEX
1. 移住者たちの知恵を、西粟倉村行政は積極的に借ります ↓
2. 行政だけでできることにも限界があるんです ↓
3. 儲からない地域課題をベンチャーにお願いするのは行政の甘え ↓
4.「定住しなくていいんです」 ↓
5. なんでもいいけど、なんでもよくない ↓



1.移住者たちの知恵を、西粟倉村行政は積極的に借ります

産業観光課課長さんで、企画戦略の中心人物でもある上山さん。上山さんは平成21年(2009年)産業観光課の課長になりました。その時点で、西粟倉の将来像を企画論のなかで計画ができあがり始動しはじめていた、『百年の森林構想』の概形ができていました。

上山:僕らの役割は、概形に沿って描いた村の未来が“絵に描いた餅”にならないように実行していく役割を担いました。地域の中で『百年の森林構想』がやろうとしていることは、非常に可能性のあることです。山という資源を活かす『百年の森林構想』を基軸にしてやっていくことは、間違えていないと僕自身も思っています。

・・・とはいえ、当初は『百年の森林構想』メディア先行型だったので、現実があとから追いかけていくという作業をひたすらやっていたというのが本音のところです(笑)。

– メディア受けはいいけれども中身がない。その後を引き受けることになった上山さん。そして西粟倉村役場の場合、小さな役場の人員に限界がある関係上、企画戦略部門が豊かに動くような状況ではありません。そこで村役場はまちづくりを外部と連携して取り組みはじめます。西粟倉・森の学校(以下森の学校)をはじめ、多くの移住者・起業家たちが西粟倉村に集います。

上山:うちは、起業家や地域おこし協力隊を「わけわからんけど受け入れてみた」っていうことがよくあるんですけど(笑)。そうやって村へ移住してきた人達が、わけわからんまま終わるのではなくて、ひとつひとつ結果を出しています。

– 『FSC森林認証』、『西粟倉村共有の森ファンド』など、村民だけでは絶対に出ないアイデアが移住者から出てきて、結果として可視化されはじめます。それが「間違いではなかった」という信頼感に繋がりました。

上山:だから次に村がなにかやるときも、移住者たちの知恵やネットワークや行動力を行政としてお借りする、というスタンスを続けていこうと思います。

– これこそが西粟倉村役場の真骨頂。村内の限られた人材の中だけで対応するのではなく、一旦外に出して外部からアドバイスを受け入れる。場合によっては事業そのものを譲渡する、そうやって業務の“切り分け”をするのです。それらをすることによってローカルベンチャーの生業も生まれます。行政が仕事を民間に預けるのは簡単なようで難しいことです。他の市町村ではまず出来ないとことを西粟倉村役場は軽々とやってのけている。そのウルトラCのヒミツに迫ります。



2.行政だけでやることにも限界があるんです

– 一つの自治体がこなす仕事量は、人口が多くても少なくても実はそんなに変わりません。少ない人員で他の市町村と同じように村を運営しながら、新しいことにチャレンジするには外部の力が必要でした。しかし“公共性”を重んじる行政という枠内で合意を得る事がむずかしいのでは?と考えてしまいます。

上山:うちは役場の組織が小さいのでコンセンサスが取りやすいんです。また小さな村ですから共通の地域性の中で話ができるというのが西粟倉の強みです。大きな市町村だと、たくさんの意見が重なるでしょうし、多様な地域性があるでしょうから、足並みを揃えるのが難しいのではないでしょうか。結果が出てくると村議員さんも納得されますし、もう突拍子もないことが続きすぎているからなのか最近はもうあまり言われません(笑)。厳しい意見が出ても説明すればいいかな。言うべき事を言えば良い。

– 行政が新しいことをする時「行政が関与した以上は失敗させられない、なにかあったときは行政が責任を取らなければならない」という恐怖心で「自分が出来ない事を人に任せる」ことすらできないのが日本中の役所の現状です。しかし、西粟倉はその一線を越えています。

上山:僕らは『自分達ではできないこと』があることと、『自分達だけでできること』に限界があることを知っています。それでも『できない』と言ってさじをなげても地域課題がなくなるわけではありません。西粟倉村役場は『できない』と言って終わりにしません。できないことを他の人にやってもらうことにためらいはありませんでした。

– 他人、しかも行政外の人に公共事業を任せることは自分がやる以上に勇気のいることです。これは目の前で山積みとなった地域課題を見てみぬふりをせず、解決するためにおこした、小さな村の挑戦なのです。

上山:やるべきことをやれば、説得材料が出そろってくる。地域の中のローカルベンチャーの支援をする。それのなにが悪いんですか、と僕は思います。

– 結果で説明するということは、「結果を出してくれるんじゃないか」という半ば確信を持っていることです。西粟倉村役場は民間企業の力を信じて、時に村の未来を託します。そして、結果を持って説明責任を果たしますという宣言でもあります。ローカルベンチャーがこの村でアクションを起こして結果を出せるのは、村役場と起業、人と人の信頼があるからです。

– しかし、信頼だけでは「挑戦する村」になる条件を満たさない気がします。

上山:そして、『百年の森林構想』をはじめ、この村の未来はこうしましょうという理念があったから、僕たち行政も突き進めました。そして、この時代に小さい村が生き残っていく意味を考えます。地域社会が将来どうなるだろうという不安の中で、未来の村ってどうなっているのか、その時になにが必要になってくるのかということを、なるべく頭のなかでイメージするようにしています。それは妄想に近い部分もあります。

そんなことを念頭に置いて計画を立てていくと20年後や30年後を目指す計画が多いです。それが結果として、突拍子もない事業になっているのかも(笑)「将来どうなるか」ってことを、どの職員も描かないと動けないので、描きながら政策を打っていかないと今やっていることがまったく意味がなくなります。妄想をし続けて、できるかぎりその妄想を現実に近づけていく努力をしていくことが我々の仕事ではないかなと思っています。



3.儲からない地域課題をベンチャーにお願いするのは行政の甘え

– 具体的に西粟倉村役場とローカルベンチャー企業は、どんな関係性でまちづくりと企業収益のバランスを取っているのでしょうか。

上山:僕らは自分達でできないことはお願いするけれど、丸投げは絶対にしません。たとえばうちの地域資源である木材。森林を保つための間伐材に付加価値をつけて流通させることを森の学校にお願いしていますが、流通部分でお金になるものは行政がそんなにタッチしなくても流通販路があります。

問題になるのは森の学校さんにお預けしても負担にしかならない、お金にならない木材もこの村にはたくさんあることです。それは地域課題ですよね。お金にならない木材流通ルートや有効活用することを考えて下さい、と村の地域課題を民間企業である森の学校にお願いするのは筋違いです。森の学校さんは事業として木材に関わっているので、儲からないけど、村のために、という部分をお願いするのは、行政の甘えです。

地域課題をなんらかの形で活用するルートは、行政が自分達で見出さなければならないと考えています。その部分を行政が打破するために、『環境モデル都市』だったり『バイオマス都市』という構想を、行政主導で動かしています。

– 「お金にならない木材は燃やして地域熱供給としてエネルギー活用しよう」という村の課題を解決した未来に向けて新たなレールをひくのは行政。しかし、プレイヤーを行政内でやりくりすることは難しい。そこで、実際の事業運営はローカルベンチャーにバトンを渡すのです。

ueyama5 西粟倉村が取り組む、地域熱エネルギーの視察のアテンドをする上山さん

上山:西粟倉村で地域熱供給をするために、2014年に、村楽エナジー株式会社さん(以下村楽エナジー)が美作市から移転しました。バイオマス事業はガスや電気と同じ、村のインフラ事業です。そこにバイオマスという新しい要素を入れて新しい事業をすることは、行政だけではとても難しいことです。

村が「こういう事業が欲しい」と思うなかで、村が必要だと思っている事業を行なう事業者が起業する場合、ある程度、需要先を確保する作業は行政の仕事だと思っています。村楽エナジーの場合は、西粟倉村がインフラとして使う地域熱分は村役場がある程度主導して整備をしていきます。それは村の未来に必要なことですから。それ以上の事業拡大については企業努力次第だと思います。

– 西粟倉村役場で地域熱供給のスキームができる中で、民間のエネルギー会社に事業を委託します。課題となる部分の解決だけを村はクリアすればそれで良い。クリアするための支援はするけれども、それ以上の収益は民間企業次第だときっぱり切り分けます。この関係性は、公共と民間の相乗効果であり、協働と呼ぶのか、起業支援と呼ぶのかは立場によって変わりそうです。


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4.「定住しなくて、いいんです。」

– 行政とローカルベンチャーのスタンスが見えてきたところで、村で起業する地域おこし協力隊募集について伺います。まずソーシャル界が震撼した『定住しなくていいんです』のキャッチコピー。定住が大前提の地域おこし協力隊の募集において、完全に概念を覆しています。

上山:牧さん(牧大介/西粟倉・森の学校代表取締役校長)がメールでこのキャッチコピーを送ってくる前に「この村の度量の広いところを見せましょうね」と言われまして、そう言われちゃったらね、断れませんよね(笑)。

– それでも、普通の役所だったらOKしません、このコピーを。

上山:でも、行政や地域が「呼んだからには、このひとたちはずっとここでやってくれるんだ」って思う事自体がおかしいと思いませんか?今、西粟倉村で起業している人達がずっと西粟倉という縛りの中でやっていかれるかというと、そうではないと思いますし。皆さんスキルがあって、自分達のやりたいことがあって、西粟倉にやってこられて、変な言い方ですが“たまたま”西粟倉でやっておられると思っています。

– 地域おこし協力隊の任期は3年間。その3年間で地域に山積みとなった課題を解決してもらうために移住してもらう、というのが地域おこし協力隊の制度です。しかし西粟倉は、行政が不足する部分を地域おこし協力隊が補うという発想はなく、起業支援する一つのツールとして考えており、西粟倉村の地域おこし協力隊のほとんどは、西粟倉村のローカルベンチャー企業付けの採用になっています。

上山:国が考えている地域おこし協力隊の使い方とは明らかに違うことは自覚しています(笑)。でも、結果にコミットする意味では正しい使い方だと考えています。

– ローカルベンチャーにとっては、人件費が3年間浮く事は操業していく上で大きな支援になります。また行政にとっても、村の未来を託したローカルベンチャーの繁栄は村の繁栄につながります。

上山:だから協力隊も役場が人材を直接決めるってことはありません。受け入れてくださる民間企業が認める人材ならば、役場がそれをノーという必要はまったくない。その代わり、人材そのものを探すのもローカルベンチャーみなさん自分たちでやってくださいねって感じなんですけどね(笑)。

なによりも、行政が探すと人が集まりません。私たちはそれを自覚していますから。牧さんや、大島さん(大島正幸/木工房ようび代表取締役)のネットワーク、民間企業がそれぞれ持つネットワークの情報発信力の方が役場より高くて魅力的。そのことに納得しています。僕らは制度を利用して、行政として彼らを受け入れる手続きをする。そのかわり、役場が欲しい素養もちょっとついでにお願いできませんかと(笑)。

– 協力隊は行政単位で制度を使うため、議会や村長の了承が必要です。西粟倉村の場合は、「森の学校が責任を持って引き受けると言っているので任せましょう」というスタンスで了承が取れるそう。それも民間企業の正しい使い方のひとつだと上山さんは言います。そういう選択肢がある行政は、とても素敵だなと思うのは私だけではないはずです。



5.なんでもいいけど、なんでもよくない

– そんな西粟倉村、“あえて”どんな人材に来てもらいたいと思っているのでしょうか。

上山:本当になんでもいいんですけどね、僕は(笑)。この村で、今まで西粟倉が培ってきたネットワークや能力を利用してもらって、自分がなりたいものに挑戦してもらえたらと思います。そして、本当にやりたいっていうことが全面に出てくる人がきてくれるといいな、とも思っています。

– ・・・と上山さんは言いますが、西粟倉村役場は、民間企業を受け入れて支援する準備をすることに多大な苦労をして今日に至ります。縁があって来てくれた人達が幸せになるってことを願って祈って見守るっていう、この村が持つ心の豊かさがローカルベンチャーを育て、地域課題を解決してきました。最初から材木屋、エネルギー会社、家具屋などを狙って呼んだわけではありません。西粟倉村に来てなにかしたい、そんな人たちを柔軟に受け入れていくことによって、派生した事業がたくさんあります。

上山:好きこそものの上手なれと言いますが、結局自分の好きな事をしなければ、どこでやっても続かないと思います。ソメヤスズキablabo酒うららなど、自分の好きなことで起業した人たちもたくさんいます。地域課題は、解決しているようでしてないようでしている(笑)。

彼らは地域ができないけれども地域がしたいことを、やってくれている。それは、誰が来られても、なにかしら西粟倉村にもたらされます。地域にとって、いること自体に価値がある。なんらかの形で、村に彼らの存在が生きてきます。最初にしたい事がすべてではないと思っていますし、僕らも、それくらいの幅でみないといけないと思っています。

– 短絡的に地域課題を解決させようとは思っていない、と上山さん。地域課題を解決していく可能性のあるひとたちを呼んで、その人達がこの地域で生き生きと暮らしていくと、いつしか地域課題を解決する力を蓄えている事が往々にしてあると言います。

上山:一生懸命やるなら好きな事やっても、と言いながら、ゆくゆくは地域課題の解決をするような人材を長期的に育成・・・というか村で抱え込むというか(笑)。押し付けないことで持っている気持ちを引き出していきたいと思います。

あともう一つ、僕らはすべての事業をあまりバラバラに考えないようにしています。『百年の森林構想』にバイオマスがあって、エネルギー事業が動いて、エネルギーが安くあがると、新しい産業ができます。もしかしたらこの村でハウス栽培のマンゴーが作れるようになるかもしれない。この話だけで、森からエネルギー、そして最後は農業に連鎖していきますよね。要は、すべては連鎖することになると思うんですよ。その連鎖の中で地域おこし協力隊さんが自分のやりたいことをするために村にやってきて、一生懸命やられて、その間で、村に必要な連鎖のある部分を将来的にやってもらえる可能性が出てきます。その、可能性の“可能性”を、募集したいと思っています。

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– 地域創生といわれる現在、優秀な人材がどんどん地方・地域へ入っていきます。給料を優遇したら田舎に人が来てくれる、そんな時代ではなくなりました。移住者側が価値を見出せるものを、受け入れる側が持っているのか。そして、まちづくりを切実に行なうべき行政が、地域や人に愛を持って動くことができているのか。行政が公共を創造していくプロセスとその実現可能性こそが、その地域が自分の輝ける場所なのかを見定めるポイントかもしれません。また地域の中身に訴えるものがなければ、誰も来ないんだよ。というところを正しく認識する作業が地域にも必要です。

西粟倉村が指し示す新しい公共の中で起業をすることは、予想を斜め上いくクリエイティブをもたらすことでしょう。この村だからできること、この村だから生まれることを体感したい挑戦者を、強く募集します。


挑戦者を新たに募集します
http://nishihour.jp/challenge

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上山隆浩(うえやま・たかひろ)
1960年生まれ。岡山県英田郡西粟倉村出身。西粟倉村役場産業振興課課長。西粟倉村内の地域資源を活かしながら地域活性化に取り組む。「百年の森林構想」の推進や「環境モデル都市構想」「バイオマス産業都市構想」を掲げ、小水力発電事業の収益を新たな再生エネルギーの導入や二酸化炭素の削減に再投資することで、村の地域資源を活用した新たな地域経営モデルの構築と魅力ある中山間地の将来像を提示したいと考え、実現に向け力を注いでいる。

西粟倉村役場
http://www.vill.nishiawakura.okayama.jp